旧じぇーしん日誌(~2013.10)

日本商品を中国に売り込んでます

ビジネスクレーマーに気をつけろ

 

クレーマーはどこにだっている。

 

上海市内のとある百貨店で日本食品のイベントを開催していた時のこと。

見た目20代半ば程度の、比較的身なりの整った若い男性が商品を物色していた。商品パッケージや裏面のラベルを特に注視している。「ん、同業者かな?」と思えなくもなかったが、販売員は特に変わりなく商品の案内を進める。ほどなくして彼はある商品を購入するわけだが、それが一気に30個程のまとめ買い。食品なので大した額ではないが、とはいえ男性一人で買う分量としてはちょっと異常だ。で、何くわぬ顔でレジを通って帰っていった。

その後、案の定というべきか、その男性が工商行政管理局にクレームをいれた。理由は「中国語ラベルの表記が正しくない」というもの。それを理由に商品の返品と賠償金を請求してきたのだ。こちらは当然必要な手続きを踏んだ商品である旨を説明し、交渉を繰り返し行った結果、商品返品には応じたが賠償金は払わずに済んだ。

 

肝の冷えた話だが、こうしたトラブルは、実は中国で非常に多い。

 

この類のクレームのポイントは「グレーゾーンを狙っていること」。

輸入品等の商品ラベル表記は、おおよその内容は決められているものの厳密なフォーマットが決まっているわけではない。各成分の表記などは個別判断に委ねられるケースも少なくないのだ。もちろん販売元である輸入者や小売店は事前チェックをしておくわけだが、昨今は消費者から「この表記のせいで誤認したんだぞゴルァ!」と強弁されるとお役所としては耳を傾けざるをえない状況にある。また彼らクレーマーは、関連法律や規定に関する知識が豊富で、そうした売り側が対応しきれない「グレーゾーン」をピンポイントで指摘してくる狡猾さがあるのだ。さらに彼らは幾つかのグループで行動しており、工商局など関連機関の担当官とも繋がっているというからなおさらタチが悪かったりする。

 

この一件、当社は日頃から市政府ともある程度人脈ができており、交渉できる人的ネットワークをもっていたから幸いにも事なきをえたが、こうしたクレームで実際賠償金を払わされる外資企業は非常に多い。ある業者などは「イベントの前には必ず工商局に挨拶参りに行く」というからいかにも中国的だ。

f:id:kane201:20120627140633j:plain 「假」は偽物の意味

 

こうした「ビジネスクレーマー」が中国でブームとなった時期がある。

1990年代半ばのいわゆる「王海現象」である。

 

1994年1月1日に施行された『消費者権益保護法』の第49 条に、「経営者の商品或いはサービスの提供に詐欺行為があった場合、消費者の要請にしたがって被った損害を賠償しなければならない」という文言がある。この内容を偶然立ち寄った本屋で知った王海氏は、早速、北京、天津などの有名デパートで、偽ブランド品を買いあさり、デパート側に対して、商品価格の倍額の損害賠償を求める訴訟を起こし、高額の賠償金を獲得した。その後も同様の訴訟を起こし賠償金を得る王海氏の行為は、一部の業者から激しい批判を浴びた反面、市民からは「ニセモノ摘発の英雄」と称えられた。王海氏はその後、「偽物ブランド対策」のコンサルティング会社を設立し多数のクライアントを抱えるようになったという。その後、「王海現象」の影響で、全国各地に同じようなクレームをつける人が相次ぐわけだが、後に上海市高級人民法院が「偽物と知りながら購入した場合、販売者の行為は詐欺に該当しない」という「指導意見」を打ち出したことでこのムーブメントは収束するようになった(参照123)。

f:id:kane201:20120627141104j:plain 王海さん。今も度々メディアに登場する

 

サクッとまとめてしまったが、昨今の「消費者権利の保護」の流れを受け、今もなお同様のクレーム需要にメリットを見出す業者は少なくない。いかにも政府系機関のような公益団体を名乗り、企業をゆする輩もでてきており注意を呼びかけている。

 

彼らの登場により、売る側は商品に対する自己チェック機能を強化することを余儀なくされ、結果として売り場の品質向上に大きく寄与した。これは良い面だろう。反面、先述のような「そもそも制度が明確化されない中でのグレーゾーン」につけこみ、善意の販売者が大きな被害を受けてしまうケースが今もって多いという課題も残っている。

哀しいかな、こうした中国の消費者クレームに対して日本企業はこれまで相手の言いなりだった。譲歩ありきの交渉にも関わらず、初回言い値で示談してしまうことも多かったという。そうなると、業者の間では「こりゃ日本企業はカモやで!」とばかりにたかられていた面も否めない。この点で、現地交渉サポートもしっかりやっていかないとと思ったりするのですが。

 

しかしまぁ、「グレーゾーンで儲けろ!」は中国ビジネスの鉄則ですねホント。。

 

参照1)http://www.jetro-pkip.org/upload_file/2007033033473033.pdf

参照2)http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20120412/390752/

参照3)http://blog.livedoor.jp/hongzheng0805/archives/50276351.html