上海の子供が外食に走る理由
いま上海の一般家庭では、「夜の外食」が増えてるらしいという話を耳にした。
「あぁ、両親が共働きで忙しいからでしょ?」
「いえ、それもありますけど、今の子供たちは家の料理が好きじゃないんです」
「え、なんで?」
「美味しくないからですよ。レストランの料理のほうが美味しいでしょう?」
「まぁ・・うーん。。でもおふくろの味って一番美味しいもんじゃない?」
「私の子供にしたら、母親でなくおばあちゃんの味ですけどね」
「・・ああそうね」
上海家庭料理の一つ「紅焼肉」
話し相手は友人の某上海人、彼にも小学生の息子がいる。彼の奥さんもフルタイムで働いているので、基本的に料理は彼のお母さん(おばあちゃん)が作る。上海のごく一般的な家庭の形だろう。しかしその息子さんはおばあちゃんの作る料理があまり好きではないという。なんで嫌いなのかと聞いてみると、彼はちょっと考えて2つの理由を挙げた。
1.上海は世界中の料理が手軽に食べられるから、そっちに舌が慣れた
2.貧しい時代に育った祖父母世代は、基本的に料理が上手ではない
なるほど、1の理由はよくわかる。日本でもかつてよく言われていたことだ。2の理由はちょっと風当たり強そうだけど、過去数十年の歴史を振り返れば一理あるような気がしないでもない。
純粋に疑問だが、舌の好みって小さい時に馴染んだ食べ物に染まるものではないんだろうか?たしかに自分の子供時代もたまに家族でいくファミレスはとても楽しみだったが、「家の料理が好きじゃない」と思うことはなかったし、少なくとも周囲の友達にもあまりいなかった気がする。たまたま自分の周りにはいなかっただけか、はたまた日本の現代っ子は違うのか。
最初が肝心でしょ?
ひとまず子供の好き嫌いの話は置いておくとして、「上海の家庭が家で食事をしない理由」はもう少しあるだろう。まずはレストランの多様化と手軽さ。ファーストフードから欧米風レストラン、和食屋まで値段もピンきりであるので外食には困らない。あとは、中華料理の“おかずの多さ"も一つの要因かもしれない。そもそも中華料理は単品では成立しない。「食卓でおかずが2品だったら机ひっくり返しますよ!」と叫ぶ中国人もいるくらいなので、それなりに手間と時間を要する。また上海では比較的狭い家に3世帯が住むケースも多いので、その分キッチンスペースも限られるため、十分な料理も作りづらいなんて理由もあるんだろか。
「日本だと惣菜屋でおかずを買って帰ることって多いけど、上海ではどうなの?」
「あるにはありますけど、ウチは少ないです。冷めちゃったら美味しくないし」
「電子レンジで温めればいいでしょ」
「レンジは家に一応ありますけど、ほとんど使いません」
「あ、そうなの?どうして?」
「なんでですかね。あんまり必要な時がないんですよ。捨ててもいいくらいです」
中国では、電子レンジを使う文化が上海ですらまだ浸透しきれていない。最近はコンビニ弁当が普及してきてレンジが身近になってきてはいるものの、30代くらいの人でもレンジを使う習慣がない人だって珍しくない。中国人は冷めた食事を嫌うので、一旦冷めてしまったものは炒めるか蒸すなどして再び食べるのが主流らしい。うーん、そうすると冷凍食品の道はまだまだ険しいな。。
もちろん、家庭料理が絶対である必要は全くない、と思う、たぶん。しかし故郷に帰ってたまに食べる母親の手料理を美味しく思えなくなってはなんだか寂しい気もする。それって家族の繋がりにも影響を及ぼさないのかとおせっかいながら心配してしまう。
「そもそも奥さんって料理できるの?」
「本人はやればできるって言いますけど。食べたことはありません」
「付き合ってる時とか、彼女の手料理食べたいなとかって思ったりしなかった?」
「いえ、特に。デートはすべて外食でしたし」
「はぁ・・」
「それよりもレストランのグレードのほうがよっぽど重要な問題でした」
「・・こっちは色々お金かかるもんね」
こういうのもいいけどさ
経済が成長し、人々の生活習慣もドンドン変容する上海みたいな大都市では、伝統的な食習慣を次世代に受け継ぐこともどうやら大変なことらしいという話でした。